第一夜 囁き
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(見てごらん、見てごらん) (これは、どうしたこと) (こんなものが、ここにいるなんて) (いるはずのないものが、ここにいるなんて) (これは、ここにいるべきものじゃない) (俺たちの仲間じゃない) (これは、われわれに仇なすものだ) (憎い憎い、敵だよ) (さあて、どうしよう) (生きたまま、穴ぐらの底へ埋めようか) (千六本に切り刻んで、火の中へ放り込もうか) (それとも、いっそ頭から喰ってしまおうか) (たやすいこと。だって、こんなにちっぽけなのだもの) (ごらん、なんと小さな手だろう) (なんと小さな足だろう) (簡単に毀れてしまうだろうよ) (そら、肌だって、こんなに柔らかくて滑っこい) (うろこもない、羽毛もない) (簡単に傷ついてしまうだろうよ) (それに、角も、鉤爪も、牙だってないよ) (どうやって身を守るというのだろう) (翼もないよ) (強い脚も) (どうやって逃げるというのだろう) (まだ言葉もない) (知恵もない) (どうやって切り抜けるというのだろう) (なんて小さな生きもの) (なんて弱い生きもの) (なんてもろい生きもの) (……おや、) (おや、まあ、笑ったよ) (なんて温かな顔だろう) (鈴のような声だよ) (不思議な生きものだ) (俺たちの心までとろかしてしまった) (これが、) (人間の赤ん坊というやつか……) END |