第二夜 赤子にまつわる会話
―あるじ様、あるじ様。 ―どうした。今疲れている。手短かに話せ。 ―その…… ―手短かに話せと言っておる。 ―いえ、実はそれがし、人間の赤子を拾いました。 ―何!? ―はっ、お叱りは覚悟の上で…… ―無論だ、たわけ者! お前が、地獄の騎士にして地獄門の門番たるお前が、よりにもよって人間の赤子など…… ―お怒りは重々承知。なれど、あれはか弱き幼子、親に捨てられ生きるすべとてなき者にござります。愚かしいとは知りながら、それがし、見捨ててはおけませなんだ。 ―何を血迷っておる。おのれの分を忘れたか。我らと人とは相容れぬ仲、天地明け初めし頃よりの仇敵ぞ。 ―御意、御意にござります。なれど、あのいたいけな笑顔、それがしにはとても敵とは思えませぬ。 ―お前がたぶらかされて何とする。あれは我らに害なすものと言うておろうが。第一、魔物どもを統べるお前がその様では、他の者への示しがつかぬわ。 ―いえ、それが、恐れながら、みなあの赤子を憎からず思い、いや、むしろ我が子のごとく愛でておりまする。 ―ええい、ならば勝手にいたせ。しかし、よいか。この事については我は一切あずかり知らぬ。赤子のことで我に手を焼かすような真似はいたすな。そして万一、あれが我らに害をなした場合、一切の責めはお前で負うがいい。このこと、しかと肝に銘じておけ。 ―はっ、心得ましてござります。まこと有難き幸せにて…… ―もうよい、下がれ。 END |