第七夜 影たち


 地の底の城の一室、魔物たちは真ん中にひとつの灯りを囲んで車座になる。
 杯を傾け、飯をつつき、みな上機嫌で笑い騒ぐなか、少年はふと、背後に目を向ける。

 と……周りの壁一面に踊る、巨大な影たち。
 炎の揺らめき、魔物たちの一挙動、それらすべての動きをとらえ、ぶわんぶわんと伸び縮みする。

 何か面白い話でも出たのか、車座がわっと沸く。
 途端、影たちもまた、爆発のようにどっと動く。
 びくっとして、少年は父にしがみついた。

 ――ああ、影か。
 笑いながら、父は言う。

 彼は、父に聞いてみる。
 ――あのひとたち、どこから来るの?

 ――どこからでも来るさ。壁のすきま、天井の隅っこ、お前の髪の毛の中にだっているよ。影はわれわれの一部だが、同時に闇の子であり、闇そのものでもあるのだ。我々の手になぞ負えはしない、気ままな者たちさ。……もっとも昼間は別だがね。

 ――ひるま?
 ――ああ、昼間だ。地上ではな、一日の半分は、こんな大きな火の玉が頭上に上ってな、その明るいことといったら、四方八方から押し寄せて、わしら魔物は目がくらんでしまう。その光の前では、影たちも押し固められ、縮こまって、大人しくしているしかないのさ。

 ――あのひとたち、みんな?
 ――そう、みんなさ。だがね、しばらくすればその火の玉は沈んでしまう。そのころになると、影は俄然、元気になる。人々の足元から、あらゆる物陰の隅々から、湧き上がり、徐々に手を伸ばし、つながりあって膨れ上がる。火の玉がすっかり沈んでしまえば、あとは闇の天下だ。

 ――ふうん。

 ――覚えておおき、影たちが怖いのなんてその火の玉ひとつさ。彼らは、ちょうどここにあるような、これっぱかしの灯りなら大好きでね。ああして灯りをからかって、好き放題踊るんだよ。闇から見たら、光なんてカケラみたいなものなんだから。


END


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