第八夜 耳を澄ます
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太陽の力及ばぬ闇の底、よすがとなるのが光より音であることには、何の不思議もない。 少年もまた、そうだった。 父をはじめとする魔物たちが「外」とやらに出て行き、留守を守るわずかな者たちと、少年は遊び始める。 松明の光が力を失い闇と溶け合うその境界の向こうから、彼を呼ぶものがいる。 ……鬼さんこちら、手のなるほうへ…… 歌声と、手拍子。頼りはそれだけ。 彼は、つられてそちらに足を踏み出す。 ……はは、違う、違うよ。こっちへおいで。…… 少しずつ進み、退き、動きながら届く声に、彼は闇の中、手を伸ばす。 そうしてだんだんに近づいていき、不意にその手が相手に触れる。 ――ああ、つかまっちゃった。よくわかったね。 ――だって、声がするんだもん。 みんなでけらけら笑う声が、石壁の部屋じゅうを揺るがす。 それに飽きると、彼は石壁に耳をあてる。 ひやりとした感覚。その中に、部屋の中のいろいろな物音。 足音、話し声、誰かのしわぶき。 その奥に、遠くからかすかに、ごおお、ごおお、という音。 ……この穴は昔、火山だったって聞いたけれど。 そして、その向こうから。 ちいさくちいさく、でも規則正しく、ざっ、ざっ、ざっ、という音。 ――あ、父さんたちだ。 石壁からぱっと離れ、ドアに飛びつく。 真っ先に気づくのも、真っ先に声を上げるのも、いつだって彼だ。 おかえり! ああ、ただいま。 ほら、こいつが戦利品だよ。今日は早いじゃない。飯はできてるよ、お皿出して…… とたん、部屋じゅうがどっと、爆発みたいににぎやかになる。 太陽の力及ばぬ闇の底、よすがとなるのが光より音であることには、何の不思議もない。 そして、外からの魔物たちが、ドアの中の一番乗りの声を楽しみに帰ってくることにも、無論何の不思議もない。 END |