第九夜 かくれんぼ
父親は、ぐるりと辺りを見回した。が、すぐそばにいるはずの子供の姿は見えない。 ――はて。 夜目はきくはずだし、第一あの子は色が白い。見落とすわけもなかった。 ――あそこか。 部屋の隅に、箱詰めの食料などがごたごたと置かれた一角がある。そこにもぐっているに違いなかった。 干からびた顔に笑みを浮かべ、父親は立ち上がった。 積まれた箱の奥をひょいと覗き込んだその時、 小さな影がぱっと視界を掠めた。 あ、と振り返ったときはもう、その影は部屋の中央の床に触れていた。 ――あはは、父さん、引っかかった。 部屋中にどっと笑い声。父親もまた笑っていた。 ――こいつめ。 子供が隠れていたのは、積まれた箱の手前にいた仲間……さして大柄でもないモンスターの、その陰だった。 誰も気に留めないようなそんな小さな暗がりに、子供はすっぽりと身を沈めていたのだ。 無邪気に笑う子とともに笑いながら、父親は驚きを禁じえない。 人間たる我が子はすでに、闇に守られるすべを身につけていた。 それがこの子にとって幸なのか不幸なのか、父親には見当がつかなかった。 END |