第十夜 葬送


 大きな螺旋階段にずらりと並ぶ影。
 少年は、こんな日が好きではない。

 螺旋の中央には、暗い暗い穴。それは闇そのもののようで、少年がいくら覗き込んでも、深さもなにも知れない。
 周りの階段の一段一段に、壁に沿うように魔物たちが立つ。夜目のきかない少年には、その行列は果てしなく続いているように見える。
 点々と置かれた松明が時折はじける。他には、誰も何も言わない。それが恐ろしく、少年は、同じ段に立つ父の後ろに隠れる。


 彼らは、ただ待つ。


 やがて、それが来る。


 螺旋階段の上のほうから、手づたいにひそやかに回されるもの。
 戸板にくくられた、見覚えのある姿。

 勇敢な男だった。無念で仕方ない。
 さきほど父が話していたのを、少年も聞いて知っている。
 だがその話が、つい昨日彼を抱き上げて豪快に笑った姿とどうしても結びつかず、少年は目を伏せる。

 やがて、戸板は父の腕にわたる。
 父の腕の一本が、無言で彼を促す。


 どうしてよいやら分からぬまま、彼は戸板から覗く手に、そっと手を触れた。
 毛むくじゃらのその感触は、まったく普段通りなのに。


 戸板はすぐに、下へ下へと流れてゆく。
 少年は父の後ろの隠れたまま、目で追えなくなるまでそれを見送った。

 列の最後まで行ったとき、戸板は穴に投げ込まれるのだという。
 闇の子は闇へ。それが掟なのだそうだ。


 そして、それが済んだとき、銅鑼がいちどだけ鳴らされる。
 穴の底から響いてくる重たげな音。
 その残響はいつまでも消えない。

 魂を送る音なのだから耳をふさいではいけない。
 父に言われた言葉を、少年はいくどもいくども心の中で繰り返す。


END


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