第十二夜 年輪
部屋で使っているまな板の中にひとつ、石でないものがある。それは石よりもやわらかく、心持ち温かく思えた。 表面にはぐるぐると細かい渦巻きのような模様がある。 ――これ、なに? ――ああ、そいつは木の切り株さ。木って分かるかい、こんな柱みたいな奴でね。それをこう横に切ると、こんな模様が出てくるのさ。年輪って言うんだけどね。 ――ねんりん? ――そう。こいつは木の伝記みたいなもんだ。一年ごとに輪っかが一つ増えるんだがね(そうそう、この模様は渦巻きじゃなくて沢山の輪なんだよ)、よく日が照る年はこう、輪と輪の間が広がる。反対に、ろくに栄養が取れなかった年は狭くなる。後はそうさね、日の当たる側と陰になる側でも、輪の間の幅は違うんだよ。ほれ、こっち側の方が広くなってるだろ? ――ふうん……じゃ、これもねんりん? 少年は壁の一隅を指差して尋ねる。 ――うん? ――ほらこれ、おれがナイフで傷つけちゃったとこ。あと、こっちはドラゴンが火を吐いて焦がした跡。それからこれは大ネズミの仔がオシッコ漏らしたとこ。これってさ…… ――この部屋のねんりんみたいじゃない? ――ああ、はは、そうだな。その通りだ。……そういや、ここはアイツが背中こすった跡だろうな。ほれ、毛がついてら。 ――こっちは、こないだ死んだ奴がうっかり刀ぶつけた所じゃないか。 いつしか他の者たちも話につられ、てんでに部屋の中を指差し始める。 ――考えもしなかったな。とうにいなくなっちまったと思ってた連中が、ちゃんと石壁に棲み付いてるなんて。 END |